2019年7月19日金曜日

細胞の分子生物学 7章 遺伝子発現の調節 第1-3節

担当:川上
参加者:6名

[概要]
 多細胞生物の多様な細胞型は同じゲノムから異なる量や質の遺伝子産物が発現することにより実現される.遺伝子産物の発現調節は主に転写の段階で行われ,転写活性化因子,転写抑制因子,クロマチン構造の変化,ゲノム修飾などにより調節される.原核生物より真核生物の方が複雑な調節を行う.

[議論点]
転写調節は活性化因子のみでは行えないのか

 転写調節の機構がなぜこのように複雑なのかという疑問から,具体的に簡略化する方法として活性化因子のみで調節を行うことが可能かという点について議論した.

 まず活性化因子が結合している場合(ONとする),抑制因子が結合している場合(OFFとする),何も結合していない場合(Neutralとする)で転写量がどれくらい変化するかを見積もった.仮にONの時を100,OFFの時を0(0.01程度)とした.

 真核生物の転写調節は活性化/抑制因子の結合によるファインチューニング的な調節以外にも細胞型を左右するクロマチン構造やメチル化による大雑把な調節がされており,Neutralにおける転写量は遺伝子により異なる.今回の議論では簡略化のためそのような大雑把な調節機構がない原核生物における調節を仮定し,Neutralにおける転写量を5程度と見積もった.

 具体例としてlacオペロンによる調節を考える.lacオペロンではグルコースが存在下で活性化因子の結合,ラクトース非存在下で抑制因子の結合が起こり,それぞれの環境で以下のような量で転写されると考えられる.

A: glc+ lac+ → 5 (Neutral)
B: glc+ lac- → 0 (OFF)
C: glc- lac+ → 100 (ON)
D: glc- lac- → 1 (ONかつOFF,Neutralよりは少ないと仮定)

一方で抑制因子による調節がなくなった場合,以下のように転写量が変化する.

A: glc+ lac+ → 5 (Neutral)
B: glc+ lac- → 5 (Neutral)
C: glc- lac+ → 100 (ON)
D: glc- lac- → 100 (ON)

最も変化が大きいのは環境Dにおいてラクトースがない環境においても転写を続けてしまうという変化であり,それにより起こりうる影響を以下に示す.

・発現したタンパク質はラクトースが存在する環境になるまでの在庫となる
・発現したタンパク質はやがて分解されてしまうため使われなければ無駄である
・グルコースが存在するようになるまで延々とタンパク質を合成するためコストがかかる

転写抑制がされなかった場合,使われなかったタンパク質が有害になるとは考えにくいが,転写翻訳のためのエネルギー消費により生存に不利になることが考えられる.抑制因子を用いて転写調節を行うためのコストと環境Dにおいて転写が抑制されないことによるコストを比較した.抑制因子は活性化因子に比べ特異性や他の分子との相互作用が少なくて済むため,活性化因子を用いることよりはコストが少ない.一方で環境Dにおいて転写が抑制されなかった場合,ただでさえエネルギー源が少ない環境でエネルギー消費が増大し,適応的とは言えない.そのためこの例については抑制因子を用いることがより多様な環境に適応する上で有利だと考えた.

[まとめ]
 以上の議論の結果,活性化因子と抑制因子の両方を用いることでより多様な環境に適応的な応答ができるため,両方を有する調節機能が発達したと考えた.

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